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オタクのくせに。

オタクのくせに。

ツイッターではチラッと呟いたような気がしないでもないが、
つい最近、私はここ香港で日本語プロジェクト担当者をリクルートしていた。
割と自分一人で案件をこなすことが多かった私のいわば相棒とも言えるポジションで、
会社にとってはそうでもないが、私にしてみれば超がつくほど重要な選考である。

当然ながら人選は香港在住の日本人を中心に慎重にすすめていたのであるが、
ふとした拍子に人材会社から日本語を巧みに話すという一人の香港人が送りつけられて来る。

ミーティングルームに待たせておいた彼はそれはもう絵に描いたような典型的な香港人男子。
日本人女子が羨むような色白の肌に華奢な体格。当然黒縁メガネで、髪型だけはやたら挑戦的。
しかも彼の場合、新卒だから余計に青臭さが漂ってきていて、それが鼻につく。

「日本語はどこで学んだの?」
「主に漫画を読んで勉強しました。」
「会社は学校と違ってストレスが何かと多いけれど、上手にそれを解消できるかな?」
「そうですね。学校の論文を書くときにストレスが溜まりましたが、親に泣き寝入りしたら
なんとなくスッキリしました。」
「そう・・・。」

そんな彼の頭が今、私の机の前のパーティションの上からゆらゆらと見えている。
面接で行われるやりとりとしてはおおよそポジティブに評価できるものではなかったが、
彼の屈託のない笑顔と潔いまでの正直さについつい心の隙間を突かれてしまったのである。

 まったく、最近の若いもんは・・・

今までいろんな香港人と仕事をしてきたが、さすがに一回り下のスタッフは初めて。
80後は云々・・・とブツブツ文句をつける時代もすでに過去となり、今や彼ら90後が登場。
仕事を教えている最中にも、彼のPCにはおそらく友達やら家族からであろうメッセージが
ひっきりなしにやって来るし、夜寝るのも随分と遅いらしく、午後になってくると
睡魔に危うくやられそうなシーンも度々見られている。

まったく、最近の若いもんは・・・。
自分が言われて一番嫌だったあのフレーズが、私の心のなかでは何度もこだまするようになった。

まぁ、それはいい。

それよりもっと私を困惑させるのは彼の自慢の日本語である。
これは「アニメ、もしくは漫画から日本語を学んだ」という香港ではよくあるタイプの
日本語話者に共通することなのであるが、たまにやたらラフなのである。
丁寧な言葉遣いで話してたと思ったら、急にいきなり「いや、そりゃ分かんねぇよ。」とか。
私の方もさすがに免疫が出来てきたが初めて聞いた時は絶句した。

更には、入社してからはいよいよ自分がオタクであることを気兼ねなく
カミングアウトするようになり、私にすら仕事の合間にアニメの話題を頻繁に振ってくる狼藉。
しかも、普段は誰も知らないようなマニアックなアニメを見ているだろうくせに
私と話すときはわざわざ年代を合わせてドラゴンボールだのちびまる子ちゃんとかで
興味をひいてくるから私もついつい「あぁ、あれはね・・・」とかつられてしまって
今日も流れで「サザエさん症候群」という新しい日本語を教える羽目になってしまった。

何だかんだで完全に彼のペースなのである。
緊張感とは無縁に飄々とした表情で自分の好きな世界に没頭を続ける彼。
つかみどころがなくて、いつもヘラヘラ。
アニメから離れるといよいよ何のポリシーも持っていなさそうな薄っぺらそうなヤツである。

 オタクの心に眠るもの

そんな凸凹コンビとも言える我々だが、ある日他のメンバーとランチをともにすることになる。
その日の話題は割とシリアスなもので、中国と香港。香港の将来。等々の政治・社会問題。
私は内心、彼がそんな話題についてこれるかやや不安で複雑な顔をして横に座っていたわけだが、
そこでオタクは予想外の行動を見せる。

仲間内の誰よりも真面目な表情で突然、
「香港は香港だから!とにかく特別な場所だから中国とは違うんだ!」と主張を始める。
大好きなアニメのことを語るときの目とはまた違った意味で本気そのものな熱い眼差し。

言っていることは正直説得力に欠ける。理由もへったくれもない。
曲がりなりにも香港大学卒なんだからもうちょいアカデミックなディスカッションの仕方も
あろうかとツッコミたくもなるが、そんなところが逆にリアルさを醸し出していて悪くない。
どうやら彼も雨傘革命で金鐘で寝泊まりしていた連中の一味だったらしい。

オタクのくせに。

周りは呆気にとられていたけれど、私はクスリと表情を崩す。
何の主張も持たないと思っていたこのただのオタク香港男子が堂々と声高々に香港愛を語る。
そんな光景を見てからというもの、私は何だかこの青年がどうにも可愛くなってしまって、
こんなヤツでもしばらく相棒にしてやってもいいかな、などと考えている次第である。

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この記事を書いたライターさん : HKLF

HKLF
Cha Siu Baau編集係。偏見に満ちた愛と独断で香港をぶった切る異色ウェブサイト「香港ライフファイル」著者でもあったりします。

4 コメント

  1. 私も香港に居た頃は、こういうお子たちを何人か面接しましたので、その「オタク新入り君」の風貌やしゃべり方が目に浮かびます(笑)。
    中には初出社前日に「別のとこに決まりました!そっち行きます!」とすがすがしくメールしてきた猛者には、愕然としましたが(笑)。楽しくやってください!そしてまたの観察記をお待ちしています!!

    • HKLF

      面接する時から辞めて行く時まで、何かと驚きを提供してくれる香港人スタッフたちですが、きっと来週からも予想もつかない行動で楽しませて?くれるはず。おかげで仕事にも刺激が出るので感謝しなければですね?

  2. ルシャベール

    久しぶりに面白可笑しく、読ませて頂きました!

    最後の部分、すごーく分かります。普段は政治問題なんて、全く興味無さそうな若者が、香港のアイデンティティーについて熱く語る、私も何度も出くわしました!割りとチャラチャラした感じの彼らが、雨傘革命の時に人が変わったように豹変したのには、驚かされました。でもそこが、私にとっての香港人の一番の魅力であります!彼らは、老いも若きも一番大事な事はちゃんと分かってる。

    ところで彼とのその後のチームワーク、如何ですか 笑?

    • HKLF

      ルシャベールさん、こんにちは。

      若い人は(こんな言い方するあたり私ももう立派な年寄り!)国境を超えて何だか頼りなさ気な感じがしますが、ちゃんと心のなかに熱くなれるものを持ってらっしゃる人はそれだけでも尊敬できるんです。
      たまたま、彼は雨傘革命のくだりでその片鱗を見せてくれましたが、日本語でも韓国語でもアニメでも。いろいろ一生懸命なので、私はこの若者を結構気に入っています。
      チームワークも上手く行っていると思いますよ。少なくとも私はそう感じてますが、向こうはどうだか。笑

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