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私が食べる中華料理

私が食べる中華料理

食の都に居を構えながら、その食に少々不満である。

不満、というより精確に言うならば、食べたいものが食べることが出来ていない、
ような気がしている、という不思議な話。

時は私が香港に移り住んだころまで遡る。
まず、この時期に私は大方の日本人観光客と同じように、
ごく一般的な中華料理の洗礼を浴びるべくして浴びている。

中華料理のアイコン的存在だと思っていた料理たちが見当たらないという例のアレである。
ラーメン、エビチリソースに杏仁豆腐。
こっちに来たら、しこたま食べてやろうと思って楽しみにしていた本場の味。
それが、どんなにいろんなレストランを巡ろうとも
メニューに彼らの姿を見ることは無かったのである。
この悲しい発見は、あり得ないくらいにイノセントだった
香港初心者の私にとって大変にショックな出来事であった。

しかし、それもそのはず。
日本人が恋焦がれるラーメンなんて、こちらの人に言わせてみれば日本食であるし、
エビチリもルーツは中国に持つものの、日本に紹介されてから
違う食べ物かと見違えるほどに独自進化した食べ物。
杏仁豆腐に至ってはもともと薬膳料理であるし、在港8年だというのに
いまだにこの街で口にしたことがないというほどの代物である。

日本人が思う中華料理。日本人が好む中華料理の味。
そのほとんどが実は既に日本料理と言ってよいほどに改良(改悪?)された
日本の食べ物だったという現実に四半世紀も気づいていなかったのだ。

そして、さらに時が過ぎると、中華料理と一口に言ったって、
この街で愛されているそれと、そうでないそれとがあることにようやく私は気付くようになる。
キッカケは麻婆豆腐。これは間違いなく後者である。

そもそも、この街のレストランでは麻婆豆腐なんて、なかなかメニューに見当たらない。
そして、運良くそれを発見できたとしたって、「日本の方が美味しいじゃん?」
と不謹慎にも思ってしまうようなレベルのものしか出会うことができないのだ。

中華料理を愛する人が聞いたなら、基本的すぎて呆れてしまう理由が
そこには存在するのだけれどあの狭い日本にだって、それぞれ郷土料理があるわけだから、
これだけ無駄に大きな国土を持つ中国に至っては当然のお話である。

香港で麻婆豆腐を求め彷徨うこと。
これすなわち、北海道には得も言われぬ理想郷があるという刻み込まれたDNAが
導くままに札幌にやってきた香港人観光客が、
街中でゴーヤチャンプルーを求め歩くようなことである。

この街で愛される中華料理。それは例えば粥であり、飲茶であり、中湯のように
広東地方をルーツに持つ、薄味で刺激の少ない品々なのであって、
花椒だの辣醤だのがふんだんに使用されるようなものでは決してない。
後者については、日本が中華料理をとことん日本人の口に合うように
変えてしまったように、この街でも港式という大義の下、とことんローカル化される。

ここまで書いたところで、私は既に「実在する」、そして「香港を本場とする」料理を
食べるようにこの街では強制的に制限されていることが分かる。
北京ダック、小籠包、口水鶏、餃子、等々。
私が個人的に好む魅惑の中華料理の数々が、残念ながらすでに脱落したことになる。

そういう情況において私は一定のストレスを感じているわけなのだけれど
香港人と食事に行く時にはさらにもうひとつ頭痛の種が増えてしまう。
彼らの食に対する嗜好性。実は一番厄介なのがこれなのである。

私は以前にも食に関する記事を書いた時に、「香港人は健康志向すぎる」と
愚痴をもらしたことがあるのだが、やはり今でもそのイメージに大きな変化はない。
いただいたコメント等を見る限りでは、この街にもいわゆる肉食系の
香港人というのは棲息しているようだし、私も再度周りを見渡してみたのだけれど、
やはりヤギやウシがのんびり草を貪っている姿しか見つけることは出来なかった。

ちょっとでも脂っぽいものを見れば、「そんなの食うと、太るから嫌。」
私がいつも凍檸茶をオーダーするのを知ってながら、
「冷たいものばっか飲んでると、今に早死するから。」
しまいには、「お腹空いてるでしょ?ガッツリ食べたいね?」の誘導尋問に
「うん、そうね。たまには咕嚕肉とか。」って答えるなり、「そんなの鬼佬の食べ物。」
その一方で、外脆內軟がいかに尊いかを延々と説教するのである。

これは結構なストレスである。
ランチの時に私が食べたいものを自分から言わなくなったのも、
そういうオブラートって何?美味しいの?的なコメントたちが
間髪入れずに戻ってくることが容易に予測され、自分が傷つくのを知っているからである。

そういう経緯もあって、個人的におおよそ香港人たちのことは好きなのであるが、
彼らとの食事に関しては実はあんまり満足することは多くない。
そして、行き場を失った私の食への欲求は残業終わりの帰り道に爆発し、
遅い時間にも関わらず、身の回りの香港人なら絶対足を踏み入れないような
レストランにひとり入ってはバカ食いしてしまうのである。

そういう日々を積み重ねるうちに、色白で大変スキニーな香港人たちの中にあって、
独自に立派な体格を育むことに私は成功した。
ちなみに、この街ではデブに面と向かってデブと呼ぶことは大正義。
一点の曇もない笑顔で「早、肥仔!」と爽やかに通り過ぎていく香港人同僚たち。
どっちに転んだって、傷ついてしまうのがこの街の道理なのである。

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この記事を書いたライターさん : HKLF

HKLF
Cha Siu Baau編集係。偏見に満ちた愛と独断で香港をぶった切る異色ウェブサイト「香港ライフファイル」著者でもあったりします。